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快楽亭ブラック著 歌舞伎はこう見ろ!【椿説歌舞伎観劇談義】を読んで [歌舞伎]


歌舞伎はこう見ろ!―椿説歌舞伎観劇談義

歌舞伎はこう見ろ!―椿説歌舞伎観劇談義

  • 作者: 快楽亭 ブラック
  • 出版社/メーカー: 彩流社
  • 発売日: 2010/12
  • メディア: 単行本



amazonは発送が遅すぎるのでおすすめしません。
版元ドットコムは翌日配達でした。
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-7791-1583-7.html

もっとも地元の書店に何故か置いてあったので我慢しきれずに買ってしまって、同じ本を2冊持つことになってしまった。とにかく書き飛ばした感があって、十分なチェックがされていないのか間違いが多すぎるが、無類の歌舞伎好きが書いただけあって、信頼できる記述が多く、あのインチキな『坂東玉三郎 歌舞伎座立女形への道』に比べれば、ずっと歌舞伎を語り尽くした感のある本物の本である。もっとも、中川祐介の著書を礼賛しているような真面目?な読者には、絶対受け入れられないような下品さに満ちている。それが逆に大いに気にいった。

著者の快楽亭ブラック氏は、歌舞伎座の三階席に通う人なら見かけたことがあるであろう元立川流の米国人ハーフの落語家。天使の愛する落語家・川柳川柳師匠と親しいというだけで、天使が大好きな落語家の一人である。川柳川柳の「ジャズ息子」に続いて聴く「演歌息子」のCDは大のお気に入りである。一度生で彼の落語を聴いてみたいのだが、一人ででける勇気がない。下ネタ大好き、SMの緊縛されたまま中座の歌舞伎の舞台に立った経験など、天使の好みではある。

日本映画の評論家という別の面もあって、書き慣れた文章がなかなか読ませる。それだけに明らかな間違いは惜しい。そうした間違いは気がついただけで以下の通り・

「お土砂をかける」の意味
誤り ちゃんと決まっていることが駄目になること
正解 お世辞を言うなどして相手の心を和らげる。おべっかを使う。

誤り 「降るあめりかに袖はぬらさじ」
正解 「ふるあめりかに袖はぬらさじ」

誤り  気振り
正解 毛振り

誤り  水谷良恵
正解  水谷良重

誤り  傾城鏡獅子
正解  枕獅子

誤り  江戸只衛
正解  江戸兵衛

まあ、ここまではご愛敬…。

ふたつの致命的な間違い

誤り 「暗闇の丑松」の作者 村上元三
正解 「暗闇の丑松」の作者 長谷川伸

村上元三は演出者あるいは監修者だと思う。

誤り 市川三升(十代目市川團十郎)は九代目團十郎の子
正解 市川三升(十代目市川團十郎)は九代目團十郎の長女実子(二代目市川翠扇)と結婚し、市川宗家に婿養子として入る。元は銀行員という経歴の持ち主

ゲラのチェックを歌舞伎に詳しい人にしてもらえば防げた初歩的なミス。内容は悪くない本なのに、かえすがえすも残念なミス。

それでも、この本を歌舞伎ファンに推奨したいのは、松竹に遠慮して書きたいことが書けない演劇評論家や、歌舞伎が好きで書いているのか怪しい新聞記者といった連中と違い、自腹でしかも安い席で見続けている姿勢に感動がある。

以下は大いに感心し、共感した部分。

歌舞伎は変態である。

歌右衛門の八ツ橋の醜いのなんのって、横浜メリーか『瞼の母』に出てくる老夜鷹、あるいは浅草映画街に昼間から出没する老街娼。

「文七元結」の主人公・長兵衛が死のうとして死にきれずに家に帰ってきたところで幕があくという解釈。さすがに落語家。「文七ぶっとい」という持ちネタがあり、借金地獄に堕ちて家族を泣かせ自殺を考えた人だけのことはある。まさに目から鱗だった。

山田洋次の映画はいつもアウトローをインテリが暖かく見詰めている。

今の中村屋に同志よりも客にやさしい、という一点が加われば、天下無双、世界一の役者になれる

まったく「大江戸りびんぐでっど」ほど期待ハズレだった芝居もない。歌舞伎でゾンビ物を演るという酒場の冗談のような思い付きと、そのゾンビを飼いならして派遣労働者として働かすという底の浅い社会風刺で客を満足させられるほど歌舞伎は甘くないのだ。いい芝居を見慣れていない小劇場の客はその程度でだませてもね。

最も感動したのは、富十郎の「勧進帳」の弁慶を観て、銀座通りを涙をボロボロと流しながら歩いたという記述をみつけたこと。天使も富十郎の弁慶を観て、同じように泣きながら晴海通りを歩いたことがあったからだ。そして「船弁慶」でのエピソード。素敵な宝石のような話である。富十郎も快楽亭ブラック師匠も大好きになった。

歌舞伎好きは是非とも読まれることをおすすめしたいです。著者はまさしく本物の歌舞伎好き。一度生の落語を聴きに行こうと計画中。天使も愛読している「快楽亭ブラックの出直しブログ」もおすすめです。最後の「七段目」も面白く読める。


片岡孝夫によって歌舞伎ファンになったブラック。猿之助によって歌舞伎狂となった。20代後半で歌舞伎に目覚め、これまでの遅れを取り戻すべく、日本全国、歌舞伎を追う。なぜ歌舞伎は凄いのか?観劇の鉄則を快楽亭が論じ尽くす!

快楽亭ブラック
快楽亭ブラック(本名・福田秀文) 1952年東京・町田生まれ。快楽亭ブラック襲名まで16回改名。1969年立川談志に入門。1972年破門、桂三枝門下へ移籍。1979年談志門下に戻る。同年11月立川談トンで二つ目昇進。1992年二代目快楽亭ブラック襲名、真打昇進。2000年芸術祭優秀賞受賞(「英國密航」「道具屋」)。2005年6月落語立川流を自主退会。2005年10月21日、心筋梗塞及び急性大動脈乖離により入院。映画評論家としても活躍、名作から低予算映画まで幅広い。主な著書に『日本映画に愛の鞭とロウソクを』(イーハ・トーヴ、1999年)、『快楽亭ブラックの放送禁止落語大全(1)(2) CD付き』(洋泉社、2006年)、『借金2000万円返済記』(ブックマン社、2006年)等がある。
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コメント 1

パンチ

よくぞ、書いてくれました。
富十郎の評価は日頃から低すぎると思っていました。
勧進帳をはじめ、どれだけ感動を与えてくれたか。

この記述を読んで、少し喉の奥のトゲが取れました。
天使さまのほかの記述も、これを機会にじっくりと拝見させていただきます。

あまりコメントなどはしないのですが、
どうしてもお礼を書きたくなりました。
by パンチ (2013-06-24 11:55) 

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